日時:9月15日(日曜日)13時から
場所:東京工業大学 大岡山キャンパス レクチャーシアター(大岡山西講義棟1)
1.領域紹介
13:00〜
・太田 順 先生 (東京大学 大学院 工学系研究科・教授)
超適応の科学:概要
本報告では、「超適応の科学」研究に至った背景と超適応の定義、超適応研究領域のアプローチ、当該研究領域の成果の概要として、超適応現象の発見と解明、そのメカニズムならびにモデリングの観点から述べる。
2.講演
13:25〜 「超適応」を可能にするもの
・伊佐 正 先生 (京都大学 大学院 医学研究科・教授)
通常、成熟脳では、脳梗塞や脊髄損傷で障害がある場合、障害部位の近隣で既存の経路の軸索伸長が起きるなどの可塑性が発揮されることが知られているが、より大規模な可塑性が起きることは想定されていなかった。ところが我々のサルを用いた研究では、頚髄の側索に限局した損傷では、訓練によって脳の脱抑制によると思われる損傷同側の運動野も動員されるような大域的な可塑性が回復初期に起きる。さらに亜半切のようなより大きな損傷では、訓練だけでは回復しないが、定期的に両側運動野に広汎に電気刺激を加えると、損傷反対側運動野由来の皮質脊髄路が錐体交叉で進路を変え、反対側頚髄を下行して損傷尾側で交叉して運動ニューロンに到達し、粗な把持運動が回復するという「超適応」とも呼べる大規模な可塑性が起きる。このようなニューロモジュレーション法による「超適応」誘導の可能性について論じてみたい。
14:10〜 筋再配置による身体変化に対する超適応現象
・舩戸 徹郎 先生 (電気通信大学 大学院 情報理工学研究科・准教授)
病気や事故などで失った筋機能の治療のために、損傷した筋と健常な別の筋を付け替える手術(筋再配置手術)を行うと、しばらくした後に患者は再配置した筋を自由に動かせるようになる。このような身体の大きな変化に神経系がどのように対処するかを調べるため、我々はサルに対して筋再配置手術を施し、回復過程を調べた。すると、筋再配置手術後にサルの筋活動のタイミングが(再配置前に対して)逆転し、2カ月程度後に再び活動が変化して元の関係に戻るとともに運動機能が向上するという特徴的な現象を発見した。講演では、通常では起こらない身体の大きな変化に対するこの超適応現象を紹介し、筋シナジー解析、筋骨格モデル等を用いて背後にあるメカニズムに迫る研究を紹介する。
14:55〜 人の可能性をみせてくれる超適応
・内藤 栄一 先生 (情報通信研究機構 未来ICT研究所 脳情報通信融合研究センター・室長)
本講演では、まず、ブラインドサッカー選手の空間ナビゲーション領域の拡大や車椅子レース選手の運動野足領域の拡大など、通常の適応の範囲を大きく逸脱した超適応と呼ぶべき現象を紹介する。さらに、両者で共通に観察される意欲動員領域の拡大を報告し、超適応と意欲との関係についても議論する。人の左右運動野間の抑制機構は、発達とともに成熟し、加齢とともに機能低下する。しかし、成人になっても脳は半球間抑制を脱抑制して柔軟に運動を制御するし、長期にわたる車椅子レースのトレーニングは半球間抑制を慢性的に脱抑制する。このような半球間抑制の可塑性を利用すると、それぞれ異なるトレーニングによって、受動運動中の手の筋活動を効果的に増大させたり、高齢者の機能低下した半球間抑制を改善して手指の巧緻性を向上させるなどの適応促進が可能になることを示す。
3.パネルディスカッション
16:00〜17:00
・司会:四津 有人 先生 (日本医科大学 医学部・准教授)
パネリスト:
太田 順 先生
伊佐 正 先生
舩戸 徹郎 先生
内藤 栄一 先生